吉田:
今日のテーマは「一体感」がいいかなと提案しました。その背景には、最近の世界情勢、例えばトランプ前大統領の「自国ファースト」や、右派と左派の対立など、何かが分かれてしまうことで生じる対立が、世の中の多くの問題の原因になっているのではないかという思いがあります。
日本人の国民性には「調和」というキーワードが合っていると思うんです。分けることなく一つになるという考え方が、今とても必要な時代ではないでしょうか。
そこで、この「一体感」について皆さんと話してみたいと思います。まずはビジネスでも人生でも、この言葉から皆さんがどういうことを受け止めているか、教えていただけますか?
安田:
「一体感」ですね。組織の中で生まれる一体感や、逆になかなかそれが生まれずに難しいという話は、私の周りでもよく話題になります。
私が人の話を聞くときに感じるのは、その人の悩みを解決できなくても、悩みを共有して「そうですよね、辛いですよね」と共感することで生まれる一体感です。問題そのものは解決していなくても、一体感があることで一緒に見守られているような安心感がお互いに持てる。そんな感覚を感じることがあります。
逆に、身近な人と仕事をしているのに、そういう一体感が欲しいのに生まれないときは、とても残念に思うこともありますね。
成澤:
私も吉田さんからこのテーマを提案されたとき、「いいな」と思いました。実は普段から「一体になる」ということはあちこちで意識しているんです。
自分自身のことで言うと、わかりやすいのはランニングの時です。走っているときに、自分の感覚と手足が一体になっている瞬間が訪れることがあります。後でスマホアプリの記録を見ると、その感覚があった時はペースも良く、楽に走れているんです。
もう一つはコーチングの場面です。うまくいっている時は、さっきの安田さんの話に近いかもしれませんが、相手と一体になっている感覚、繋がっている感覚があります。そういう時は、自然と相手側にも気づきが生まれていくことが多いですね。なので、意識して一体になろうとしています。
組織に目を向けても、一体になっている組織は強いですよね。一つの目標に向かって、みんなが好き勝手に動いているようでいて、ちゃんと成果に繋がっている。それは組織として一体になっているからこそだと思います。そういった「一体化することの大事さや価値」を普段から感じていたので、このテーマで話したいと思っていました。
安田:
ちなみに成澤コーチが、コーチングで一体感を得られるように意識しているというのは、具体的にどういうことをされているんですか?
成澤:
その人が感じていることを聞いたり、今見えているものを問いかけたりして、何をイメージして語っているのか、そのイメージを聞きに行きます。その人の世界に一緒に入っていく感じですね。
もしその人の背中にジッパーがあるとしたら、そのジッパーを開けて自分も一緒に入り、その人の目からその人の視界を見るような、それくらいの感覚です。
安田:
なるほど、むしろカウンセリングモードに近い感じですね。「相手が見ている風景を一緒に見よう」という姿勢は、カウンセラーの在り方にも通じるものがありますね。
吉田:
私もコーチングの場面で、うまくいったなと感じる時はそういう心地いい感覚があります。成澤さんと同じですが、カウンセリングと少し違う点があるとすれば、「未来に向けての絵を一緒に見る」ようなイメージでしょうか。
例えば、困っている問題があったとして、どうクリアすればもっと良い組織になるか。私の中で勝手にイメージしてしまうこともありますが、話していく中で修正したり、向こうがそのイメージに近づいてきて「こうしたい」という話が出てきたり。そこで「それいいですね!」と言って動いてもらう。そこには、一緒になっていく時間を作っている、一つになろうとしているプロセスがあるのかなと思いました。
最近思ったんですが、コーチングで一体感を得るには、戦略的に鋭い質問を投げて気づかせるテクニックも必要と言われますが、もっと大事なのは「相手を受け入れるキャパシティ」ではないかと。自然に相手が変わってくるような、相手が「受け入れられた」と感じるような受け入れ方が大事だと思っています。
これは、自然の中で行うリトリートにも通じます。参加者の感想で「清々しい」という言葉が出ますが、それは何かが開かれたり手放されたりする感覚だと思うんです。「自然(しぜん)」は「おのずから然(しか)り」とも読みますよね。そういう「じねん」の状態になること自体が、自然を通じて人が自分で気づき、自ら変わっていくことに繋がる。これがリトリートの効果であり、コーチングにも通じる部分だと感じています。
安田:
実は昨日、ある会社の管理職の皆さんとご一緒したんですが、メンバーとの面談をどうすればうまくいくかという議論になりまして。
話してくれる部下ならいいけれど、一番困るのは「最近どう?」「別に」「困ってることない?」「ありません」で終わってしまう人だと(笑)。「彼らに喋らせるにはどうすればいいんだ」という悩みがすごく大きかったんです。
どうしても「どうやって言葉を引っ張り出すか」というテクニックに頭が行きがちですが、今お二人がおっしゃったことに近い気がします。話せない人には話せない理由や事情がある。まずはその「話せないその人」を受け入れてあげることから始めたらどうでしょう、とお話ししたんですが、なかなか意識を変えていただくのは難しいなとも感じました。
成澤:
そこでいくと、「不安」にフォーカスする必要がある気がします。話さない人も、話したくないのかもしれないですが、話すにあたっての不安があるケースも結構あるんじゃないかと。
下手に話すと評価に関わるとか、高い目標を設定させられるんじゃないかとか、悪い想像をしてしまって口を閉ざすことは普通に起こります。
トランプ氏の「アメリカ・ファースト」も、逆に言えば「このままじゃアメリカがどうにかなってしまう」という不安から来ていると僕は思っています。だから「その不安は何なの?」というところにフォーカスを当てたコミュニケーションや雰囲気作りをすると、少しずつ雪解けが訪れるんじゃないでしょうか。もちろん、相性の問題で諦めるケースもあるかもしれませんが、不安へのフォーカスは大事だと思っています。
安田:
そうですよね。不安がどこから来ているのか、その人の事情をまずは理解することなんでしょうね。「そもそもあんたに言いたくないよ」と思っているのかもしれませんし(笑)。
吉田:
難しいテーマですよね。簡単なやり方と一言では決められないけれど、在り方ができていないのに力で引き出そうとしても、逆に空回りしてしまいます。そういう時こそ、「そこ(力ずく)」を手放しなさいという感じなんですが、頭では分かっていても難しい。
だからこそ、自然の中でのリトリートなどで、頭ではなく体で気づいてもらえるような場面があるといいなと思います。リトリートの感想でそういう感覚が出てくるということは、一瞬でも体で感じている部分があるわけですから。
成澤:
自然を使ったリトリートには、相手の言葉を受け取るとか、受け入れることに繋がる仕掛けがいっぱいある気がします。
一つは「豊かな自然」です。今までと違って正解が一気になくなります。決して真っ直ぐなものなんて一つもないし、ぐにゃぐにゃした木があったり、歩き方一つとっても違いがあったり。「違いが当たり前」という環境に身を置くと、普段のビジネスの世界で持っている正しさや基準みたいなものが、ちょっと緩む感じがあるのかなと。
もう一つは、この間の西湖のリトリートのように、数時間にわたってみんなで一緒になって時間を過ごしながら進んでいくことですね。同じ時間を共有する中で、お互いに距離感が縮まり、ある種信頼感が芽生えていく。その土台があるから、その後にもらう言葉が受け取れるようになる。
リトリートに行くと、普段なら「え?」と思っちゃうことも「そういうのもあるか」と受け止めが変わっていく、というのはあるなと気づきました。
吉田:
その喋ってくれない人とその上司に、一緒にリトリートに来てもらうのがいいですね。「力ずくでやるよりも、その時間を作る方がいいですよ」って誘ってください(笑)。
成澤:
その文脈でいうと、リトリートからは若干外れるかもしれませんが、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というプログラムがありますよね。真っ暗闇の中に、視覚障害者の方がガイドとなって入るんですが、あそこに入ると今までの感覚が一切使えなくなって、最初は恐怖しかないんです。
役職も能力差も一気になくなって、暗闇の中でお互い協力しないとやっていけない。そうすると頼らざるを得ないから、暗闇を抜けた後には「よく抜けてきたね!」みたいな仲間感がものすごく増しているんです。
リトリートは基本的に目が見える状態でやりますが、洞窟の中に入って真っ暗闇を体験するとか、夜のトレッキングとか、そういう効果を狙ってみても面白いなと思います。
吉田:
私も体験しましたが、本当にその通りでしたね。あれはいいです。
成澤:
西湖だったら洞窟の中に入って、真っ暗闇のところまで行くとかね。
吉田:
そういう企画も面白いですね。そういう場所に行くと、上司と部下という分かれた状況じゃなくなるわけですよ。ある意味、一つになる状態になっている。
普段は分かれてしまっていて、「どうして理解してくれないんだ」「理解するにはどうしたらいいか」と気持ちの上での分離があるけれど、そこを取っ払う方法は色々ありますよね。ダイアログ・イン・ザ・ダークもそうだし、リトリートもそう。距離が縮まる、一つになる時間の作り方です。
「一つになる」ということで感動する場面もありますよね。例えば、同じ野球チームを応援していて、大谷翔平がホームランを打った時に「すごいね!」と盛り上がる。あれはみんな一つになっているわけです。その感覚、一体感になる感覚を少し味わうと、その直後は話が繋がり合うというか、一体感を持つ感覚になっているんじゃないかと思います。
安田:
今お二人の話を聞いていて思ったのは、日常生活の中では、やっぱりみんなお互いに自分の「鎧」を着て生活しているんですよね。
リトリートに参加して毎回感じるのは、日常の生活の場からリトリートのフィールドに行くまでの移動時間も含めて、少しずつ鎧を脱いでいる感じがあることです。バスの中で残った仕事を片付けながら「今日は何が起きるのかな」と思い、現地に着いてからもすぐに入り込むわけではなく、だんだんと日頃の自分から抜けて、ただの自分、「ただの一匹の人間」になる。
ただの人間同士が集まったところで、また新しいものが起きる。いろんな方との語らいを通じて、時間が経つにつれて深まっていく変化も心地よかったりします。
だからおっしゃる通り、上司と部下と一緒に来るというのは一つの解かもしれませんね。ちなみに、実際に洞窟を使った管理者向けのプログラムもありますよ。洞窟の中で「この人が怪我をしてしまいました、どうやって助け出しましょうか?」みたいな課題に取り組むような。
成澤:
そのプログラムの方に興味がそそられますね(笑)。
やっぱり嫌でも共通体験をしていくことや、いつもと違う時間軸、ゆったりとした時間を過ごすことで、目の前のタスクだけでなく「自分」にも意識が向く状態を作っておくのは、すごく大事なことなんだなと思いました。
吉田:
「一つになる」と聞いた時に、上司と部下が物理的に離れていても、真ん中の「円」に入ってくると一つになるイメージがあります。その円に入るきっかけが共通体験であったり、歩み寄ることであったり、リトリートであったりする。
物理的に離れているものを一つにしていくための動き、それが何なのかは人それぞれ違うかもしれませんが、そういうことが一つになるのに近づく方法かなと思いました。
成澤:
ここまで「一つになるにはどうしたらいいか」を話してきた気がするんですが、「一つになったらどうなるんでしょうね?」というところも聞いてみたいです。
僕はさっき話したように、走っている感覚が良くなるとかあるんですが、お二人の豊富な経験から、一つになった後にどんなシーンが見えるのか聞いてみたいなと。
安田:
僕の中では、やっぱり人と人との関係が深まる、信頼関係が生まれるということでしょうか。「信頼関係ってどうやって生まれるの?」という問いへの答えは色々あるでしょうけど、分かり合えた一体感みたいなところから、初めて深い信頼感が生まれるような、そんな感じはしています。
吉田:
仕事をしている時に、相手から連絡があって、こっちが気にしていることと向こうが気にしていることが共通だったり、同じテーマで話していると繋がっている感覚を持ったり。繋がると一つになるわけですよね。
「繋がった感覚」というのは、一つになる上でのステップかもしれません。離れているものが繋がって、一体感を感じる時がある。
あとは、僕の場合は自然との一体感ですね。自分ではあまり意識していないけれど、例えば屋久島で海から太陽が上がってくる瞬間とか、最近だとふと家の近くで夜空を見上げた時に「今日の月はでかいな、好きだな」と思う瞬間。そこは「一体感」という言葉では意識していないけれど、月と自分が一つになっているからこそ感動しているのかなと。その後すぐに現実にまた戻っちゃいますけどね(笑)。星を見た時もそうですが、おそらく一つになった感覚があるから感動している時間を過ごしているんじゃないかな、という感覚です。
成澤:
電車の中での会話でも、「私もそれ好きです!」みたいな共通項があると、グッと距離が近づく感じがありますよね。そこから一回繋がると、よりその繋がりを太くするきっかけができるというか。
あと、美しいものにスッと入っていく感じ、逆に包まれる感じというのはよく分かります。ありがとうございます。
安田:
そろそろお時間かなと思うんですが、吉田さんから今日「一体感」というテーマをいただきましたが、想像していたような流れになりましたか?
吉田:
はい。皆さんの一体感のお話や体験を聞いて、改めて今、一体感を感じています。
人間って、元は繋がっているんだけど、表面的には違う存在として独立してしまっている部分がある。でも「元は一つだ」ということを感じる体験が、別の言葉で言うと「一体感」になるのかなと。普段はなかなか難しいですが、そんな感じを受けました。
これからも一体感を意識していけば、それぞれの壁が減ってくるのかなと思います。今の時代は逆にそれぞれを主張しすぎる部分もあるので、その流れを変えていくといいのかなと思いつつ聞いていました。皆さんはいかがでしょうか?
成澤:
吉田さんの言葉から二つ思いました。
一つは「人間も自然の一部である」という意味で、元々繋がっていますよねと。だから自然に触れて繋がる感覚が得られるのは、ある意味当然のことなんだけど、忘れちゃっていることなのかなと。
もう一つは、人間って自然界の中だと弱い存在じゃないですか。協力するからこそここまで生き残り、繁栄してきたと考えると、「一体化して協力すること」が人間の強みであり、元々持っている特性だと思うんです。だからそれを意識した方がより良いというか、人間の強みを活かして仲良く協力できたら、ちょっと違うステージに行けそうだなと思いました。
安田:
自然との一体感で言うと、なんとなく一体感って「自分と相手が同じくらいのものが一緒になる」イメージもありますが、圧倒的に人間はちっぽけで……というのを感じることもありますよね。能登の方で大きな地震がありましたが、私達にはどうしようもない。そういう「自分もちっぽけながら自然のごく一部だぞ」と感じるのが、僕の中での自然との一体感なのかなという気がしています。
あとは、冒頭で話した組織の一体感について。分断など色々ありますが、なんだかんだ言って構成するのは一人ずつの人間なんですよね。個と個が分かり合う、一体感を持つことの連続が組織の一体感なのかなと、今は感じています。
吉田:
今日はこんなところで時間でしょうか。いい話ができましたね。ありがとうございました。
法政大学キャリアデザイン学部教授
日本キャリアデザイン学会前会長
臨床心理士
公認心理士
シニア産業カウンセラー
2級コンサルティング技能士
福武書店(現ベネッセコーポレーション)に18年勤務、育児冊子ひよこクラブ創刊などに携わった後、人事部にてヘルスケア部門の立ち上げ、採用、教育、異動、昇格などを担当。
退職後大正大学臨床心理学科教授を経て2018年より現職。
海上保安庁、警察庁、警察大学校等官公庁の他民間企業でカウンセラー、講師、メンタルヘルスの組織コンサルタントとして活動。研修支援領域はストレスマネジメント、メンタルヘルス、モチベーションマネジメント、キャリアデザイン等。
株式会社Zentre 代表取締役 エグゼクティブコーチ
(社)インターナショナルZENカルチュラルセンター理事
ZENトレプレナー研究所 代表
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
30歳まで米国アラスカ州にあるパルプ会社に勤務。セスナ機でアラスカ中を飛び回る。
帰国後、中堅アパレル企業の経営の傍ら、カリフォルニア州で日本食レストランの経営や
イランへの文具輸出など、様々な事業を手掛ける。
50歳でビジネスコーチ株式会社を創業し、取締役に就任し人材育成を始める。
2011年青森県観音寺で得度(仏門に入る)
2017年(社)インターナショナルZENカルチュラルセンター設立理事
2020年ZENトレプレナー研究所設立し、代表となる
2023年に70歳で株式会社Zentreを設立し、代表取締役となる
ZEN(禅、然、善、全)をキーワードにエグゼクティブや企業に対してコーチングや人材開発を行っている。
Zentreディレクター/青山学院大学文学部卒業
産業カウンセラー
国内旅行業務取扱管理者
教育サービス企業で帰国子女教育に10年かかわった後、組織再編に際し新会社でセミナー企画、セミナーハウスやコンファレンスセンター運営に携わる。2005年に研修の企画、運営、ビジネスイベントのロジスティック手配を手がける有限会社櫂の設立に参加。各種研修プログラムの企画開発、イベント手配、催行の経験を積む。Zentreではプログラム企画開発、カスタマーリレーションを担当。自然と触れ合いつつ対話や内省を深めるオフサイトミーティング、リトリートプログラムの造詣が深い。ビジネスパーソンがよりいきいきと働き、仕事を通じて幸せになることの支援をするのが信条。一般社団法人産業カウンセラー協会東京支部専門育成研修部副部長、有限会社櫂副代表。
Zentre パートナー/中央大学文学部史学科卒
株式会社ToMoRu 代表取締役
HRD(人材開発)プロデューサー
レジリエンストレーニング認定講師
米国CTI認定コーアクティブ・コーチ(CPCC)
富士通系SI企業、人材紹介会社、生命保険会社にて、法人営業や代理店営業、ダイレクトマーケティング、キャリアカウンセラー、人事を経て株式会社ToMoRuを創業。子どもが「早く大人になりたい」と思えるような社会にするべく、社員が育つ組織づくりを目指して社外人事として企業に伴走。コーチングや対話のスキル・知識を活かして、人が育つ人事制度構築・運用や研修企画・実施の実績が豊富。
坐禅は毎朝の日課。禅的な考え方を研修やコーチングに活かすだけでなく、日々のランニングやマインドセットに応用するなど、日々、禅を実践・探求している。