ZENトレプレナー対話

「手放す」

~身体を動かすと気づく~

吉田:
では、今日のテーマは「手放す」についてです。僕が禅の話をするとき、最初に伝えるのは「単に示すことが禅」という話なんですね。物事をシンプルにし、本質を見えるようにする。そのためには不要なものを削ぎ落とす、つまり手放すことが大事になる。ただ、頭ではわかっていても腑に落ちにくいものでもあります。今日はそのあたりを深めたいと思っています。

 

安田:
ありがとうございます。吉田さんから何度も「手放すと本質が見える」という話を聞いてきましたが、正直まだ自分の中でしっくりきていません。人を見ていると「あ、この人めちゃくちゃ執着してるな」と思う時もあれば、自分自身も同じようにモヤモヤしたりします。同じ立場の人が実績を出していると、すごいねと言いながらも、どこか劣等感のようなものが出てきたりして。そういう時、自分が誰かと比べているんだなと気づくんです。手放したいものがある一方で、劣等感が生まれるのは目指す姿があるからこそでもある。執着と目標、このバランスはどう考えたらいいのかなと最近感じています。

 

成澤:
すごく共感します。何でもかんでも手放せばいい、というわけでもないですよね。何を掴んで何を手放すか、それが問題というか。そして人のステージによっても違うと思うんです。若い人が何も掴んでいないのに「手放すのがいいよね」と言っても、それは違う気がする。ある時期はがむしゃらに掴みに行く時期が必要だし、掴んだからこそ手放す意味が出てくる。ステージや目指していること、今握りしめているものによって“手放すべきかどうか”が決まる。僕も安田さんと似た問いを持っています。

 

吉田:
お二人の話、よくわかります。結局ポイントは「何を手放すか」なんですよね。若い人はまず一生懸命やればいい。調子がいい時に無理に手放す必要もない。壁にぶつかったり悩んだりした時に、初めて自分を振り返る機会が生まれる。そこで初めて「手放すかどうか」を考える意味が出てくる。悩んでいるのに無視して突き進むのは違うし、悩んでいないのにむやみに手放すのも違う。そういう“立ち止まる時”こそが大事だと思います。

 

安田:
今日の話は、僕が話すというより、お二人に教えてもらいたい気持ちです。お二人のクライアントでも、執着によって苦しんでいる人っていると思うんですが、どんなパターンがありますか?

 

成澤:
本当にいろいろですけど、多いのは「他者評価への執着」です。失敗したら収入が途絶えるかもしれない、関係性が壊れるかもしれない、みたいな未来への不安も多い。結局“人にどう見られるか”が根にあることが多いと感じます。セッションでそこを深く見ていくと「あ、自分は評価ばかり気にしていたんだ」と気づき、殻が破れる瞬間がある。そこから動き出せる人も多いです。

 

安田:
成長を制限する執着は外したほうがいい、という感じでしょうか?

 

成澤:
すべて外したほうがいいとは思いません。その人が外したいかどうかが大事です。そして、防衛的な執着があるからこそ身についたスキルや強みがある場合もある。よく見ていくと「これは悪いものじゃなかった」と受け入れに変わることもある。受け入れると自信につながるケースも多いです。必ずしも手放す=正解ではないということだと思います。

 

吉田:
今の“受け入れる”という話、本質的だと思います。世の中は陰陽のバランスで成り立っている。強みも裏返せば弱みに見えるように、手放すかどうかは“表裏”の見方が大切になる。例えば、営業が強すぎて周りに批判されてしまう人がいたとしても、それは彼の強みでもある。強みを活かしながら、周りに還元する行動を少しだけ加えることで、強みの影が消えていく。そういう調整こそ「手放す」に近いのかもしれません。

 

吉田:
もう一つ例を挙げると、ある常務が「自分の実績への執着」を手放した話があります。今までの実績は自分のものだと握りしめていた。でも、それをオープンにし「自分の成果を他の人のものにしてもいい」と思えた時、新しい挑戦をするエネルギーが生まれたそうです。それによって周りとの関係が良くなり、さらに大きな成果につながった。手放すとは、評価や実績を自分だけのものと思わなくなることでもあるんです。

 

成澤:
今のお話を聞いていて「手放すべきは防衛的なもの」ではないかと思いました。エネルギーが湧いている時、没入している時って、自我があまり前に出てこない。そこには防衛はない。逆に悩んでいる時は、防衛がたくさん出てくる。だから、手放すべきは“防衛反応”であって、“熱量や好奇心”は手放すべきではない。そんな気がしています。

 

安田:
その“防衛的”って言葉がすごく腑に落ちます。劣等感や自尊心は自然な防衛反応でもある。手放すとは、それを否定することではなく「そう感じている自分がいる」と受け止めることなのかなと思いました。そうすると次に進める感覚がある。

 

吉田:
まさに。防衛が悪いわけではなく、防衛とチャレンジの両方が人にはある。大事なのは、迷っている時に“そのどちらにも気づける状態”をどう作るか。頭だけで判断するのは限界があります。そこで重要なのが“身体”なんです。

 

吉田:
山を歩いたり、坐禅をしたりすると、頭でぐるぐる考えている状態から離れられる。リトリートではよく「清々しい」という感想を聞くけれど、水のように余計なものが流れて、本来の自分に戻るからなんです。自然の中で身体を通して感じると、「まあこれでいいか」と思えるようになったり、迷いが自然と整理されていったりする。手放すのは“頭”ではなく“体の感覚”が導く部分が大きいんですよね。

 

成澤:
確かに、体が疲れるともう考えている余裕がなくなる。走る時もそうで、考えながら走るとめちゃくちゃ疲れるのに、フォームだけに意識を向けると案外ペースが落ちない。あれも思考を手放している状態と近い気がします。

 

安田:
この間成澤さんに走り方を教えてもらったとき、確かにあの感覚はマインドフルネスに近かったです。右足左足の動きに意識を向けるだけで、頭のモヤモヤが静まっていく感じがありました。

 

安田:

では最後に、今日の「手放す」の価値や意味について、まとめをお願いします。

 

吉田:
今日のポイントは二つです。
まず「気づくこと」。自分が何を握りしめ、どこで壁に当たっているのかに気づくことが最初の一歩。
そして二つ目は「身体を使うこと」。体はとても正直で、頭の中が散らかっていても、体を動かすことで自然に“余計なもの”が流れていく。リトリートで皆がスッキリするのも、まさにそこに理由があります。
迷った時、自分を整え直したい時、体を使うことはとても有効です。そんなことを改めて感じた時間でした。

対談者紹介

廣川 進

Hirokawa Susumu

法政大学キャリアデザイン学部教授
日本キャリアデザイン学会前会長
臨床心理士

公認心理士

シニア産業カウンセラー
2級コンサルティング技能士

福武書店(現ベネッセコーポレーション)に18年勤務、育児冊子ひよこクラブ創刊などに携わった後、人事部にてヘルスケア部門の立ち上げ、採用、教育、異動、昇格などを担当。
退職後大正大学臨床心理学科教授を経て2018年より現職。
海上保安庁、警察庁、警察大学校等官公庁の他民間企業でカウンセラー、講師、メンタルヘルスの組織コンサルタントとして活動。研修支援領域はストレスマネジメント、メンタルヘルス、モチベーションマネジメント、キャリアデザイン等。

吉田 有

Yoshida Tamotsu

株式会社Zentre 代表取締役 エグゼクティブコーチ

(社)インターナショナルZENカルチュラルセンター理事

ZENトレプレナー研究所 代表

BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ

30歳まで米国アラスカ州にあるパルプ会社に勤務。セスナ機でアラスカ中を飛び回る。

帰国後、中堅アパレル企業の経営の傍ら、カリフォルニア州で日本食レストランの経営や

イランへの文具輸出など、様々な事業を手掛ける。

50歳でビジネスコーチ株式会社を創業し、取締役に就任し人材育成を始める。

2011年青森県観音寺で得度(仏門に入る)

2017年(社)インターナショナルZENカルチュラルセンター設立理事

2020年ZENトレプレナー研究所設立し、代表となる

2023年に70歳で株式会社Zentreを設立し、代表取締役となる

ZEN(禅、然、善、全)をキーワードにエグゼクティブや企業に対してコーチングや人材開発を行っている。

安田 修

Yasuda Osamu

Zentreディレクター/青山学院大学文学部卒業

産業カウンセラー

国内旅行業務取扱管理者

教育サービス企業で帰国子女教育に10年かかわった後、組織再編に際し新会社でセミナー企画、セミナーハウスやコンファレンスセンター運営に携わる。2005年に研修の企画、運営、ビジネスイベントのロジスティック手配を手がける有限会社櫂の設立に参加。各種研修プログラムの企画開発、イベント手配、催行の経験を積む。Zentreではプログラム企画開発、カスタマーリレーションを担当。自然と触れ合いつつ対話や内省を深めるオフサイトミーティング、リトリートプログラムの造詣が深い。ビジネスパーソンがよりいきいきと働き、仕事を通じて幸せになることの支援をするのが信条。一般社団法人産業カウンセラー協会東京支部専門育成研修部副部長、有限会社櫂副代表。

成澤 友

Narisawa Yu

Zentre パートナー/中央大学文学部史学科卒

株式会社ToMoRu 代表取締役
HRD(人材開発)プロデューサー
レジリエンストレーニング認定講師
米国CTI認定コーアクティブ・コーチ(CPCC)

富士通系SI企業、人材紹介会社、生命保険会社にて、法人営業や代理店営業、ダイレクトマーケティング、キャリアカウンセラー、人事を経て株式会社ToMoRuを創業。子どもが「早く大人になりたい」と思えるような社会にするべく、社員が育つ組織づくりを目指して社外人事として企業に伴走。コーチングや対話のスキル・知識を活かして、人が育つ人事制度構築・運用や研修企画・実施の実績が豊富。
坐禅は毎朝の日課。禅的な考え方を研修やコーチングに活かすだけでなく、日々のランニングやマインドセットに応用するなど、日々、禅を実践・探求している。

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