吉田
それではメルマガの収録を始めたいと思います。ZENtreというのは、アントレプレナーシップ(起業家精神)と禅を掛け合わせたコンセプトで、西洋的な起業家精神と東洋的なマインドというキーワードを軸にしています。
今回はその「西洋と東洋」というテーマを少し深掘りしていきたいと思っています。皆さんのバックグラウンドや感覚から、このテーマをどう捉えているか聞かせてもらえたらと思います。まず安田さん、「西洋・東洋」と聞いてどんなイメージが浮かびますか?
安田
感覚的なイメージでいいですか?たとえば「対話」という場面一つをとっても、西洋的というと、まず自分の意見をしっかり伝えることが求められるイメージがあります。一方で私たちが日常的に大事にしようとしているのは、お互いの意見を聞く、出てきたものをすり合わせるといった感覚でしょうか。
吉田
ありがとうございます。成澤さんはいかがですか?
成澤
ばくっとしたイメージで言うと、僕は映画が好きなので、小さい頃から触れてきたハリウッド映画のような、派手さや勝者が称えられる世界観が西洋のイメージとしてパッと出てきます。
一方、東洋というと、神社やお寺の雰囲気が想起されるような感じがあります。同じ西洋でも、フランス映画はあいまいな終わり方をするものもありますが、ハリウッド的なものは白黒はっきりして決着がつく印象ですね。
安田
確かに、西洋の映画のイメージって最終的に勝利者がいる、成功者が祝福されるというエンディングが多い感じがしますよね。
吉田
私は昭和の真っ只中に生きてきたので、当時のアメリカの映画や車や文化に憧れを持っていました。西部劇もかっこいいと感じていたし、漠然と「西洋的なもの=かっこいい」というイメージを持っていた。
でも年を重ねるにつれて、そのイメージが崩れてきて、逆に日本や東洋の良さが見えてきたんですよね。最初は年のせいで落ち着いたものを求めているのかなと思っていたんですが、若い人でも東洋的なものに憧れる時代背景があるように感じて、大きな流れの中で、価値観そのものが変化しているのかもしれないと思っています。
安田
今の話を聞いて思い出したのが、役所広司さんの映画「パーフェクトデイズ」です。渋谷の公衆トイレの清掃員が日々を淡々と過ごす様子をただ映しているだけのような映画なんですが、なぜか心に残って。
あとで知ったんですが、監督が外国の方だったんですよね。外国の方があの映画を作ったということが、なんか興味深いなと感じました。
成澤
それは面白いですね。アメリカ的なものが良い悪いという話ではなくて、どんな背景を持つ人があの映画を作ったのかというのはすごく気になります。リアリティがあって、現実をそのまま映しているような作品でしたよね。
吉田
アメリカにはいろんな人種、いろんな価値観の人がいますから、日本人と似た価値観を持つ人もいるはずで、その監督もそういう方だったのかもしれない。
アメリカにいて感じるのは、多様な人種が混在しているからこそ、みんなで一緒に協力して何かをやるという文化が、当たり前ではないんですよね。日本人には当たり前に思えることが、彼らにとっては違う。
以前の対話で「無分別」という言葉が出ましたが、分けない知恵、一つになっていくという考え方は、単一民族的な文化を持つ日本では当然のこととして身についている。でも異なる人種・文化が共存する社会では、自分を主張しながら論破していくことが生存戦略になる。それが西洋的なコミュニケーションスタイルの背景にあるのかもしれません。
成澤
コミュニケーションスタイルという点では、中国の方なども結構主張しているイメージがあるので、東洋だから西洋だからというより、日本が特殊なのかもしれないと思います。
日本は島国で、研究データとして不安を感じやすい国民性があるという話もあります。一方で大陸系の文化圏では、油断するとすぐ他者に責められてしまうような環境があって、主張しないと自分の利益が損なわれるという世界観が根底に流れているのかもしれない。
そういった地理的・文化的背景が東洋と西洋の違いを生んでいるというのは面白いですね。
吉田
「東洋」と言いながら、私がイメージしているのは実は日本的なものなのかもしれないと思いながら聞いていました。日本の考え方を中心にした東洋的な考え方、という置き換えでもいいのかなと。
日本の風土・国民性・文化というのは、私たちには当たり前ですが、西洋とは明らかに違う。その違いを比較しながら話すことで、お互いの理解が深まると思うんですよね。
成澤
その点で言うと、以前の東洋思想の学びの場でも話が出ましたが、多神教の文化を持つのは日本・インド・ギリシャだけで、その中でも日本だけが偶像崇拝をしていないという特徴があります。
アニミズム的な「八百万の神」の文化においては、形がないものを崇拝しているという点で、他の文化圏とは大きく異なります。ヨーロッパとアメリカに違いがあるように、東洋思想の中にも日本思想という独自の領域があって、そこはとても奥深いと感じています。
「東洋思想」ではなく「日本思想」として広まっていくと面白いなと、聞きながら思っていました。
吉田
東洋思想を学んでいくと、今のお話のように日本の基盤である神道というものが見えてきます。宗教の話というより、そのベースの考え方として。儒教・仏教・道教などさまざまな外来思想が入ってきても、八百万の神という多神教の器の大きさが、それらを調和・吸収してきたんじゃないかと思います。
あらゆるものを受け入れるキャパシティ、これが日本独自の流れを作ってきた。そういう日本人としての思想が、Zentreというコンセプトの中に込めたいものの一つでもあります。
安田
少し話は変わりますが、ワールドカップを見ていて気になったのが、ゴールを決めた選手が胸に十字を切るシーンがとても多かったことです。
私たちの宗教観とはだいぶ違うけれど、あのポーズは「自分はここまで守られ、祝福された存在だ」という感謝と確信の表れなんじゃないかと感じて。あのパワーの根源はそこにあるのかなと、すごく印象に残りました。
成澤
よりどころがあると、迷いなく進めるというのはありますよね。人間ってどこかに寄りかかれると、そこから力をもらえる。その「よりどころ」がどこにあるかは人それぞれだけど、何かに感謝する・祈るという行為自体が、人間にとって普遍的なものなのかもしれないと思いました。
吉田
「よりどころ」はとても大事だと思います。困ったときに祈りたいという気持ち、ゴールを決めたいという場面で何か人知を超えたものにすがりたいという心境、これは西洋・東洋関係なく、人間として共通のものなんじゃないかと感じます。
特にスポーツのトップレベルになると実力が拮抗してくるので、その力を最大限に引き出すために、祈る・感謝するという行為が自然と湧いてくる。ゴール後のポーズや言葉は、そういう無意識の表れなのかもしれませんね。
成澤
それを考えると、八百万の神的な感覚を持っている日本人は、よりどころがたくさんあるということなんでしょうか。
安田
面白い見方ですね 笑
成澤
日本人も表面的にはほぼ無宗教に近い人が多いけれど、根っこには八百万的な感覚が流れていて、それが文化として残っている。そこをうまく引き出すことができれば、もっといいパフォーマンスに繋がるのではないかとも感じます。
吉田
日本的・東洋的な考え方の根底には、やはり自然災害の多い風土があるのかもしれません。地震・台風・洪水と、制御できない自然の力に常にさらされてきた日本人は、それを受け入れて乗り越えるために協力し合う文化が育まれてきた。
「自然を征服する」という西洋的なアプローチではなく、自然と調和していくという考え方が生まれてくるのは、そういう風土の必然なのかもしれませんね。
成澤
たまたま直近でデータを調べたんですが、日本の国土面積は世界の陸地の0.25%しかないのに、震度5以上の地震の発生率は世界全体の18〜20%を占めていて、面積換算すると平均の40倍もの地震が発生しているんですよね。
制御できないものにどう付き合っていくか、その問いが長い歴史の中で積み重なって、今の日本の文化・思想・思考様式ができてきたのかもしれません。制御できないものと共に生きる知恵、それが東洋・日本的な思想の根幹にあるのかなと思います。
安田
そういったところから、働くことの目的や労働観にも、西洋と東洋での違いが生まれるんでしょうか。
吉田
働くことの話でいくと、日本は農耕民族・稲作文化が中心でした。種をまいてから収穫まで時間がかかる、その間みんなで共同作業をする。自然を受け入れながら、長い時間軸で、協働しながら取り組むという考え方が根底にある気がします。
一方、狩猟民族は獲物を追いかけてすぐ仕留める、目標達成型の思考になりやすい。目標を超えることでエネルギーが出る、という働き方が企業経営にも反映されてきた。
日本企業もグローバルスタンダードを真似してきましたが、日本人のメンタリティ・国民性にそぐわない部分があって、どこかでギャップが出てしまう。そういうことも起きているのかなと思いますね。
安田
そういうところで言うと、自分自身のキャリアについても、「5年後・10年後どうなっていたいか」からバックキャストして組み立てていく考え方が、正直すごく苦手で。
それよりも、今楽しく仕事ができているか、充実しているかという感覚の方に自然といってしまう。目標を決めてそこに向かって何をするか、というやり方があまり得意じゃないんですよね。
成澤
そこはすごく共感します。私は、1年前、吉田さんと安田さんとこうして対話を重ねていることは、まったく想像していなかったし、計画にも目標にも入れていなかった。「これは自分に合いそうだ」「少し力になれそうだ」という感覚があってやりませんかという流れがあって、その流れに乗ってきたらここにいたという感じです。
目標も計画もなく今ここにいて、この対話を楽しんでいる。まさにそういうことだなと思います。
安田
成澤さん、よく独立されましたね 笑
成澤
よく言われますが、本当に流れを感じて、その流れに乗ったという感覚です。だからということはあると思いますね。お二人ともそうですが、他の仕事でも、良い人と出会っていってうまく回っている部分があって、ありがたいなと思っています。何にありがたいと思っているかよくわからないですけど。
吉田
何にありがたいと思っているかよくわからなくても、その感覚はもしかしたら日本人独特の感覚なのかもしれないですね。この感覚こそが豊かに生きることの本質なのかもとすら思ってしまいます。
将来わからないことを目指しながら、というよりも「今ここ」というキーワードが、今の生き方・働き方・捉え方を表している気がします。成澤さんがその感覚を若い段階で持って、信じてやっているから縁もできてきて、流れが繋がってくる。
これがまさに東洋的なあり方だと思います。決められたことをこなすのではなく、繋がりと流れの中で何かが生まれてくる。もちろん目の前のことをきっちり遂行する要素も必要ですが、大きな流れとしてはこちらの方が心地いいのではないでしょうか。
成澤
まさにその「心地いい」というのはその通りで、これまで頑張って身につけてきた西洋的なスキルと、今ある東洋的な感覚がマージされて、一つの成果に繋がっていっている感覚があります。
それを太極図に当てはめると、二つで一つということだと思うんですよね。どちらかに分けるのではなく。
複雑系科学の分野で「カオスの縁」という言葉があります。水のメタファーで考えるとわかりやすくて、水は形を持たず、状況に応じて自由に形を変えながら、ひとかたまりになると大きな力を発揮する。水蒸気になると形もなくなって目にも見えなくなる(カオスの状態)、氷になると固まって使いどころが限定される(固定化・西洋的なイメージ)。
カオスの縁とは、その両極端の狭間にある「水」の状態を表していて、実はこのカオスの縁があるからこそ、生命が誕生したという科学的な話もあって。今、吉田さんと進めているセミナー企画の「西洋と東洋、両方大事」というテーマともまさに繋がっている話だなと思っています。
吉田
自分がそのカオスの縁に立ってやっているんだとしたら面白いですね。このカオスの縁については私もまだ深く研究できていないので、もっと探求していきたいと思いました。
東洋的・生命的というキーワードで言うと、常に変化するということが本質にある。水が水蒸気になり、冷えてまた水になり、凍れば氷になる。一定の形がなく、常に変化し続けている。
固定して「これをやらなきゃいけない」ということではなく、自由度があって、その流れの中から何かが生まれてくるというイメージ。そんなあり方が東洋的な知恵なのかなと感じています。
成澤
意外と「西洋・東洋」でばくっと話し始めてみたのに、どんどん広がりますね。西洋・東洋で二分していいのかという迷いは未だにありつつ、東洋の中にも日本があり、西洋の中にもアメリカとヨーロッパでだいぶ違いがある。
ばくっと分けることの乱暴さを感じながらも、でもここに突破口があるような気もして、引き続き見つめていきたいと思いました。今日は思いのほか盛り上がって楽しかったです。
安田
東洋の中の日本的なものという話の中に、今日少し出た宗教的な背景もあれば、自然環境・風土的な背景もある。漁業・商業・地域コミュニティの形成など、日本的なものの中にも多様な層があるんだろうなと感じました。また引き続き話を深めていきたいと思います。
吉田
東洋・西洋と二つに分けて考えるのは乱暴な部分もあるかもしれませんが、「東洋的」「西洋的」というキーワードを要素として持ちながら物事を見ていくと、理解が深まると思っています。
そういうアプローチでまた話ができればと思いました。ありがとうございました。
安田・成澤
ありがとうございました。
法政大学キャリアデザイン学部教授
日本キャリアデザイン学会前会長
臨床心理士
公認心理士
シニア産業カウンセラー
2級コンサルティング技能士
福武書店(現ベネッセコーポレーション)に18年勤務、育児冊子ひよこクラブ創刊などに携わった後、人事部にてヘルスケア部門の立ち上げ、採用、教育、異動、昇格などを担当。
退職後大正大学臨床心理学科教授を経て2018年より現職。
海上保安庁、警察庁、警察大学校等官公庁の他民間企業でカウンセラー、講師、メンタルヘルスの組織コンサルタントとして活動。研修支援領域はストレスマネジメント、メンタルヘルス、モチベーションマネジメント、キャリアデザイン等。
株式会社Zentre 代表取締役 エグゼクティブコーチ
(社)インターナショナルZENカルチュラルセンター理事
ZENトレプレナー研究所 代表
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
30歳まで米国アラスカ州にあるパルプ会社に勤務。セスナ機でアラスカ中を飛び回る。
帰国後、中堅アパレル企業の経営の傍ら、カリフォルニア州で日本食レストランの経営や
イランへの文具輸出など、様々な事業を手掛ける。
50歳でビジネスコーチ株式会社を創業し、取締役に就任し人材育成を始める。
2011年青森県観音寺で得度(仏門に入る)
2017年(社)インターナショナルZENカルチュラルセンター設立理事
2020年ZENトレプレナー研究所設立し、代表となる
2023年に70歳で株式会社Zentreを設立し、代表取締役となる
ZEN(禅、然、善、全)をキーワードにエグゼクティブや企業に対してコーチングや人材開発を行っている。
ワークショップ企画ファシリテーター
アウトドア(自然体験)プロデューサー
シンガー&ソングライター
武蔵野大学非常勤講師(2024〜)
Be-Nature School/有限会社ビーネイチャー代表
早稲田大学社会科学部卒
環境教育プログラムや自然を活用した企業研修・組織開発ワークショップを企画・実施。焚火&禅リトリート、屋久島マインドフルリトリートなど、自然×ファシリテーションという独自のボジションで事業を展開。
NPO法人NATURAL LING TRUST・理事
学校法人正和学園・評議員
【著書・絵本】『田んぼのきもち』(ポプラ社)
【編著】『おとなの自然塾』(岩波書店)
【共著】『ファシリテーション〜実践から学ぶスキルとこころ』(岩波書店)、『看護のためのファシリテーション』(医学書院)
Zentreディレクター/青山学院大学文学部卒業
産業カウンセラー
国内旅行業務取扱管理者
教育サービス企業で帰国子女教育に10年かかわった後、組織再編に際し新会社でセミナー企画、セミナーハウスやコンファレンスセンター運営に携わる。2005年に研修の企画、運営、ビジネスイベントのロジスティック手配を手がける有限会社櫂の設立に参加。各種研修プログラムの企画開発、イベント手配、催行の経験を積む。Zentreではプログラム企画開発、カスタマーリレーションを担当。自然と触れ合いつつ対話や内省を深めるオフサイトミーティング、リトリートプログラムの造詣が深い。ビジネスパーソンがよりいきいきと働き、仕事を通じて幸せになることの支援をするのが信条。一般社団法人産業カウンセラー協会東京支部専門育成研修部副部長、有限会社櫂副代表。
Zentre パートナー/中央大学文学部史学科卒
株式会社ToMoRu 代表取締役
HRD(人材開発)プロデューサー
レジリエンストレーニング認定講師
米国CTI認定コーアクティブ・コーチ(CPCC)
富士通系SI企業、人材紹介会社、生命保険会社にて、法人営業や代理店営業、ダイレクトマーケティング、キャリアカウンセラー、人事を経て株式会社ToMoRuを創業。子どもが「早く大人になりたい」と思えるような社会にするべく、社員が育つ組織づくりを目指して社外人事として企業に伴走。コーチングや対話のスキル・知識を活かして、人が育つ人事制度構築・運用や研修企画・実施の実績が豊富。
坐禅は毎朝の日課。禅的な考え方を研修やコーチングに活かすだけでなく、日々のランニングやマインドセットに応用するなど、日々、禅を実践・探求している。